2019年には日本で見られる日食が2回ある.国内で1年に2回日食が見られるのは2009年以来10年ぶり,それもほぼ全国でとなると1992年以来のことであり,2020年6月21日もあわせてちょっとした日食ラッシュとなっている.このような日食ラッシュは次にいつ来るのか,日食や月食の周期をもとに考えてみよう.
図1のように,月の軌道は太陽の軌道に対して約5.1°傾いているため,その交点付近で朔となるときにしか日食は起こらない.太陽は1年で軌道を1周するので交点付近に来るのはおよそ半年に1回,したがって,次に日食が起こるのはだいたい半年≈6朔望月後の朔だろうと予測がつく.
本来ならば観測によって周期を求めるのが筋であるが,手っ取り早く調べるには暦計算室ホームページの日食各地予報を用いるとよい.ある日食から次の日食までの時間差を求め,それを朔望周期 (29.530589日) で割ってみよう.確かに,ほとんどの場合は6朔望月後で,たまに5朔望月後や1朔望月後があることがわかる.長期間にわたって調べてみれば,6,5,1朔望月の順番に周期性があることにも気づくだろう.
日食の様子は月がどの程度太陽を隠すか,すなわち朔における太陽と月の離角で決まる.朔となるのが交点に近いほど両者の離角は小さくなるから,この問題は交点からどれくらい離れたところで朔となるかという問題に置き換えることができる (図2).後者は交点を基準とした月の公転周期である交点月 (27.212221日) からおおよそ予測がつく.
さらに,ちょっと計算すれば242交点月は223朔望月にほぼ等しく,6585日≈およそ18年と11日になることもわかるだろう.つまり,ある日食から18年と11日後に太陽と月は交点から同じくらい離れた場所で再び出会い,同じような日食を起こすのである.この周期はサロス周期と呼ばれ,先の6,5,1朔望月の順番もこの周期で一巡している.サロス周期は紀元前の時代から食の予測に使われてきたというから,古代の人々の観察力には驚かざるを得ない.
なお,太陽と月の視半径はどちらも0.25°ほどだから,両者が0.5°以上離れると重ならなくなる (=日食にならない) と思うかもしれない.ところが,月はたいへん地球の近くにあるため,地球の中心から見て太陽と月が重なっていても,地球の端から見れば約1°すなわち月が丸2個分ほどずれて見え,重ならない.
逆に,太陽と月が約1.5°離れていても部分日食は起こりうる (図3).5.1°という軌道の傾きから,この条件は交点から±約17°以内であり,太陽が1日約1°の割合で動くことから,合計34日ほどの期間のどこかで朔となればよいことになる.ところが,朔望周期はこれより短いので,端で日食となった1朔望月後,他の端で再び日食が起こる場合がある.この場合,一方は地球の北端,他方は南端1で見られることになる.皆既日食の場合はより交点に近づく必要があり,±約11°以内が条件となる.
月食も同様に,交点付近で望となるときにしか起こらない (図4).地球の影は太陽とは正反対の方向にのびるから,太陽が交点付近にいれば地球の影は必ず反対側の交点付近に来る.したがって,日食と月食は朔と望の分だけ半月離れてセットで起こり,その後約半年間はどちらも起こらない.先のように,1朔望月離れた部分日食の場合,その間にある望では地球の影は交点のすぐ近くに来るので,食分の大きな皆既月食となる.2018年07月13日の部分日食と2018年08月11日の部分日食に挟まれた2018年07月28日の皆既月食はその一例といえよう.
このように日食と月食は似たような周期を持つが,月食の場合は1朔望月離れて起こることはない.部分日食では周囲が暗くならないように,月面から見て地球が太陽の一部を隠す程度では月面は暗くならず,月食としてカウントされないからである.この状況は半影食と呼ばれるが,逆にいえば,月食で月が欠けているように見えるためには,欠けた月面から見ると地球による皆既日食となっていて光が届かないという条件が必要なのである.このため月食は皆既日食並に交点に近づくことが必要となり,1朔望月離れて起こることもなく,日食よりも回数が少なくなる.にもかかわらず月食の方が回数が多いように感じるのは,日食は見える範囲が限定されるのに対し,月食は月さえ見えれば地球上どこからでも見えるからであろう.
最後に,ふたたび日食に戻って日食ラッシュについて考えてみよう.サロス周期の長さはより正確には6585.3日と1/3日ほどの端数を持っている.このため,1サロス後の日食は日付だけでなく時刻も1/3日遅くなり,見られる場所は120°ほど西方にずれてゆく.1サロスあたり1/3日ということは3サロスでは1日,すなわちほぼ元の時刻に戻るから,今回と同じような日食ラッシュが見られるのは3サロス後,すなわち2073年〜2074年ということになる.一方で1992年の系列は,3サロスでは54年と約1か月ずれるため,同じ年ではなくなってしまう.
2019-01-06 部分日食 | 2073-02-07 部分日食 |
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2019-12-26 金環日食 | 2074-01-27 金環日食 |
2020-06-21 金環日食 | 2074-07-24 金環日食 |
1992-01-05 金環日食 | 2046-02-06 金環日食 |
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1992-12-24 部分日食 | 2047-01-26 部分日食 |
1) ただし,地球の自転軸と太陽の位置関係により北端=北極点,南端=南極点とは限らない.→本文(1)に戻る
暦象年表2019より