人類ははるか昔から太陽や月などさまざまな天体を観測して季節を知り,その周期性から暦(れき,こよみ)を作っていった.江戸時代に入り,貞享暦,寛政暦,天保暦といった日本独自の暦法を確立させていった際も天文観測は大きな役割を果たしている.それくらい暦と天文学は密接なかかわりを持ち,今でも「暦書」の編製は国立天文台の設置目的の1つとなっている.
ところで,ここでいう「暦書」とは具体的には暦象年表のことをさす1.暦象年表は非売品のため目にする機会は少ないと思われるが,理科年表暦部とほぼ同じ内容を持つ小冊子である.市民生活に密着した暦としては十分な内容ではあるが,データが数日おきであったり,表示桁数が少なかったりして,近年ますます向上している観測精度を十分に反映できないものであった.暦計算室ではこれらの課題を解消すべく,暦象年表の改訂に取り組んでいる.
具体的には以下のように平成21年版からと平成23年版からの2段階の改訂を計画している.
暦の基本となる歳差,黄道座標系について新たな勧告がなされ,国際天文基準座標系の導入などに始まる一連の改革が完了した.平成15年(2003年)版より採用したShirai and Fukushima (2001, AJ) の章動理論をこれに変える.
世界時(UT1)は地球の自転を観測することで初めて決まる時刻系である.視赤経や視赤緯などの基本量の表示桁数を増やした場合,予測値の不確定性による誤差が無視できなくなるため,それに影響されない一様な時刻系である地球時を採用することとした.ただし,日の出入り,日食などの諸現象についてはこれまでどおり中央標準時を用いている.
国際天文学連合のWGによる最新の報告書 Report of the IAU/IAG Working Group on Cartographic Coordinates and Rotational Elements: 2006に準拠,算出方法を全面的に改訂した.
これまで多くの要望がありながら紙面の都合で実現できずにいたが,この年代表を400年まで拡大した.
なお,理科年表については平成20年版より新しい太陽系惑星の定義に対応し,海王星の暦を拡充,Erisの暦や木星以遠の天体の軌道図を追加したほか,最近年代表を320年まで拡大している.平成21年版ではこれと同様の内容・スタイルを保ちつつ,数値については新しい歳差章動理論など最新の理論を採用することとした.
1) 第2次世界大戦前は本暦がこれに該当した.→本文(1)に戻る
2) 紙面の制約を受けずに内容を拡充するため,Web版を中心に整備していくこととした.なお,Web版は単に紙版を電子化して掲載をするのではなく,内容の拡充および任意の時刻・任意の地点での情報が提供できるようなシステムの構築を目指すものとする.→本文(2)に戻る
暦象年表2009より